東京高等裁判所 平成11年(行ケ)172号 判決 2000年7月04日
原告
三伸機材株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
中島和雄
同弁理士
【B】
被告
日綜産業株式会社
代表者代表取締役
【C】
訴訟代理人弁護士
矢野義宏
同
鈴木泰文
同弁理士
【D】
主文
特許庁が平成3年審判第9963号事件について平成11年4月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「伸縮自在な歩廊」とする特許第1580357号発明(昭和58年7月23日出願、平成2年10月11日設定登録、以下、審決において判断の対象としている請求項1及び5に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件各発明」ということがある。)の特許権者である。
原告は、平成3年5月13日、本件各発明に係る特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第9963号事件として審理し、平成4年4月23日に特許無効の審決をしたものの、被告がその後にした訂正審判請求が認められて確定し、これを理由に、東京高等裁判所平成4年(行ケ)第128号事件判決により、上記審決は取り消された。
特許庁は、更に審理をした結果、平成11年4月12日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年5月17日、原告にその謄本を送達した。
2 本件各発明の特許請求の範囲(別紙図面1参照)
(請求項1)
「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可とする歩廊において、当該歩廊は主歩廊と当該主歩廊の一端あるいは両端に出入自在に附設された副歩廊とからなり、主歩廊は上壁と下壁と内側胴部と外側胴部とからなる中空な枠体を備え、当該枠体の内側には長手方向に沿う開口部を設け、副歩廊は主歩廊の枠体内に長さ調整自在に沿わせて保持され且つ前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、主歩廊の枠体の内側中間には一端上面を傾斜させた足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体内側には前記開口部を介して水平方向に延長する足場板を設け、且つ主歩廊および副歩廊の枠体には長手方向又は足場板上側短手方向に折り畳み自在な手摺が附設されてなる伸縮自在な歩廊。」
(請求項5)
「主歩廊と当該主歩廊の一端あるいは両端に長さ調整自在に附設された副歩廊とからなり、主歩廊は上壁と下壁と内側胴部と外側胴部とからなる中空な枠体を備え、当該枠体の内側には長手方向に沿う開口部を設け、副歩廊は主歩廊の枠体内に長さ調整自在に沿わせて保持され且つ前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、主歩廊の枠体の内側中間には一端上面を傾斜させた足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体内側には前記開口部を介して水平方向に延長する足場板を設けた伸縮自在な歩廊。」
3 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおりである。原告主張の取消事由に関する部分について要約すると、本件各発明は、いずれも、英国特許1375962号明細書(甲第4号証)記載の技術に、米国特許第3889779号明細書(甲第2号証)、実願昭54-150513号(実開昭56-69546号)のマイクロフィルム(甲第5号証)、特公昭54-2506号公報(甲第6号証)、実公昭52-1476号公報(甲第7号証)、昭和52年6月30日社団法人仮設工業会発行の「墜落防護工安全基準の解説」はしがき及び1頁ないし5頁(甲第8号証)、意匠登録第420035号公報(甲第9号証)記載の各技術を組み合わせても、当業者が容易に発明することはできなかった、としているものである。
なお、上記各証拠の番号は、審決、本訴ともに共通であり、各号証に記載された技術を、順に「甲第4号証発明」、「甲第2号証発明」、「甲第5号証発明」ないし「甲第9号証発明」という。
第3原告主張の審決取消事由
審決の理由中、1(手続の経緯)、2(本件特許発明)、3(当事者の主張)、4(甲各号証の記載事項)は認める。
5(当審の判断)のうち、相違点(1)の認定及び同相違点についての判断の部分は争う。6(むすび)は争う。
審決は、相違点(1)の認定を誤り(取消事由1)、仮に相違点(1)の認定に誤りがないとしても相違点(1)についての判断を誤り(取消事由2)、その結果本件各発明に進歩性を認めたものであり、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点(1)の認定の誤り)
審決は、甲第4号証に、「主歩廊と当該主歩廊の両端に長さ調整自在に附設された副歩廊とからなり、主歩廊は上壁と下壁と内側胴部と外側胴部とからなる中空な枠体を備え、当該枠体の内側には長手方向に沿う開口部を設け、副歩廊は主歩廊の枠体内に長さ調整自在に沿わせて保持され且つ前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、主歩廊の枠体間には足場板を水平に設け、又副歩廊の枠体間にも水平方向に延長する足場板を設けた伸縮自在な歩廊。」(審決書25頁5行~13行)という技術(甲第4号証発明。別紙図面2参照)が記載されていると認定したうえ、この認定の下で、本件各発明と甲第4号証発明とを対比すると、本件各発明が、主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け、又副歩廊の枠体内側には開口部を介して水平に延長する足場板を設けているのに対し、甲第4号証発明にはこのことにつき記載がない点(相違点(1))で相違している旨認定しているが、誤っている。
相違点(1)の前段である「主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け」について、審決は、要するに、主歩廊の枠体に足場板を設けるに際して、その設ける位置が枠体の「内側中間」であるとの点が、甲第4号証に開示されていないというものである。
しかし、甲第4号証の第3図をみれば、主歩廊の足場板が主歩廊の枠体14の「内側」に設けられていることは明らかであり、また、主歩廊の足場板の上面の上側には、枠体14の一部をなすフランジ18が覆いかぶさっているから、足場板は枠体14の上端より下側、つまり「中間」に設けられていることになるものであり、甲第4号証には、「主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け」の構成が開示されていることになる。
相違点(1)の後段である「又副歩廊の枠体内側には開口部を介して水平に延長する足場板を設けている」については、甲第4号証の第3図に同一の構成が開示されているもので、審決もこの部分につき相違点とみていないことは、審決の記載自体から明らかである。
仮に、審決が、相違点(1)の後段を相違点と認定したとしても、甲第4号証の第3図により一見して明らかなように、甲第4号証発明においても、副歩廊の枠体に相当する側部フレーム部材24の内側には、主歩廊の枠体に相当する側部フレーム部材14の開口部を介して足場板に相当するパネル29が水平に延長するように設けられているから、審決の認定に誤りがあることは明らかである。
2 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)
審決は、本件各発明は、甲第4号証発明と甲第2号証発明、第5号証ないし甲第9号証発明とを組み合わせても、当業者が容易に発明することはできなかったと判断しているが、誤っている。
(1) 審決は、「甲第4号証には、フットボードを装着してなる記載はあるものの、このフットボードが本件訂正後の特許請求の範囲第1項の発明及び第5項の発明の上記構成事項による巾木の役目のものと同じ機能を奏するものということはできない」(審決書27頁17行ないし28頁1行)として、本件各発明の相違点(1)に係る構成「主歩廊の枠体の内側中間に」部分に進歩性を認める判断をした。
しかし、甲第4号証にいう「フットボード(foot board)」には、「足載せ台、足台、踏み台」のほかに、「(ベッドのすその)止め板、足板」の意味があり、同号証の「プラットフォーム10の一方の側に沿ってハンドレールまたはフットボードを装着することも可能である」(2頁94行~95行)との記載からみて、フットボードを装着するとの記載は、ハンドレール(手摺)が落下防止のためであることに対応して、落下防止のために足元の止め板を設けることを示唆しているものである。
そうすると、甲第4号証には、上記相違点(1)の構成による巾木の機能と同じものを奏するフットボードが示唆されていることになり、したがって、当業者は、甲第4号証発明から、本件各発明の「主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け」との構成に、容易に想到し得たものである。
(2) 甲第5号証発明は、本件各発明と同様に「伸縮自在の歩廊」の範疇に属するものであり、甲第5号証発明の道板の上壁が、物品自体、車椅子自体の落下防止を図ったものであれば、同時に作業者や介添者、さらに積卸作業又は車椅子介添に使用する物の落下防止機能も有するはずであり、工具や物の落下防止の機能について、本件各発明の巾木と甲第5号証発明の上壁との間になんら差異はない(別紙図面3(1)参照)。したがって、甲第5号証発明を考慮しても本件各発明に容易想到性を認め得ないとした審決の判断は、誤っている。
また、甲第8号証発明においては、爪先板を「枠体に相当する側部フレーム部材13、14の外側面に設ける」場合には、爪先板は枠体の一部を構成して本件各発明の「主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け」る構成となっている(別紙図面3(2)参照)。したがって、甲第8号証発明を考慮しても本件各発明に容易想到性を認め得ないとした審決の判断は、誤っている。
さらに、甲第4号証発明の荷重受けパネル(足場板)の形状を甲第9号証発明の「通路」の形状とすれば(別紙図面3(3)参照)、「枠体の内側中間に足場板を設け」の構成となることは明らかであるから、甲第4号証発明と甲第9号証発明を組み合わせても本件各発明の「主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け」る構成にはならないとした審決の認定は、誤っている。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点(1)の認定の誤り)について
(1) 原告は、相違点(1)の前段に関し、足場板の枠体への取付位置が「内側中間」である点について、甲第4号証に開示されている旨主張する。
しかし、本件各発明の「枠体の内側中間」の「中間」は、具体的にどの部分であるかを特定することはできないかもしれないが、少なくとも上端と下端でないことは明らかであり、「中間」という以上、常識的には、本件各発明の出願の願書に添付した図面第2、第3、第5図に示す位置であることは、当業者だけでなく一般人でも理解することができるものである(別紙図面1参照)。
甲第4号証の第3図に示された上側フランジ18、19は、本件各発明の枠体の上壁に相当するものというべきであり、上側フランジ18の厚みの部分を差し引いたうえ、足場板が枠体の中間に設けられたものとする原告の主張は、詭弁という以外にない。
(2) 相違点(1)の後段については、副歩廊の枠体に相当する甲第4号証の側部フレーム部材24は、ランナー部材26とフランジ27とリム28とからなり、足場板に相当する板パネル29は、フランジ27に固定されているから、当該板パネル29は開口部を貫通しておらず、開口部を介して延長していないのであるから、本件各発明の構成と相違していることは明らかである。
2 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について
(1) 原告は、フットボードの字義は巾木の役目と同じ機能をもつものも含むとの前提で、本件各発明は、甲第4号証発明から当業者が容易に想到し得たと主張する。しかし、本件各発明に係る巾木は、通常、「TOE BOARD」と表現され、「foot board」とはいわない。甲第4号証において取り付けるものとされているフッドボードは、主歩廊の枠体自体がその役目をなしている本件各発明の巾木とは、技術思想が異なるものである。
本件各発明の主歩廊と副歩廊の各枠体は、ガイド部材であると同時に巾木の機能を有するものであるから、仮に、甲第4号証発明のフットボードが、巾木の機能を有していたとしても、これは後から別個に取り付けるものであって、ガイド部材としての機能をもたせるために取り付けるものではない。したがって、本件各発明の主歩廊・副歩廊の枠体と甲第4号証発明のフットボードとは、その構成も機能も全く異なるから、当業者が甲第4号証発明から本件各発明に容易に想到し得るとすることはできない。
(2) 原告は、工具や物の落下防止の機能について、本件各発明の巾木と甲第5号証発明の上壁との間に何らの差異もないとの理由で、甲第4号証発明と甲第5号証発明とを組み合わせることにより、本件各発明は当業者が容易に想到し得た旨主張する。
しかし、甲第5号証の第2図(b)に示す枠体の上壁は、分割片4a、4bより若干上方に盛り上がっているものの、その高さは、分割片4a、4bの肉厚とほぼ同一の薄いものにすぎないから、作業者の安全や工具等の落下防止用の機能は果たせず、また、第2図(a)に示すように、車両と路上との間に傾斜して配置するものであって、分割片4a、4b上の放置物体が路上に滑り落ちてしまうから、分割片4a、4bの両サイドから工具等が落下するのを防止するようなことはもともと想定していない(別紙図面3(1)参照)。このように甲第5号証には、枠体自体に巾木の機能を持たせた技術的思想が開示されていないのであるから、甲第4号証発明と組み合わせても、本件発明の巾木の機能を備えた枠体は生まれない。
甲第8号証発明については、その爪先板(足場板)は、枠体とは別体で、使用時に枠体に取り付けるものであるから、枠体と足場板とがあらかじめ一体的に結合された本件各発明と異なっている。
甲第9号証発明については、その枠体を一体に起立した足場板用の型材が開示されているものの、これは、足場板単体として使用されるものにすぎず、この足場板に他の足場板(副歩廊)を伸縮自在に組み付けることは、全く想定されていない。
以上のとおりであるから、甲第4号証発明に、甲第5号証発明、甲第8号証発明又は甲第9号証発明を組み合わせても、容易に本件各発明に想到し得たとすることはできない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(1)の認定の誤り)について
審決は、本件各発明と甲第4号証発明とを対比すると、本件各発明が、主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け、又副歩廊の枠体内側には開口部を介して水平に延長する足場板を設けているのに対し、甲第4号証発明にはこのことにつき記載がない点(相違点(1))で相違している旨認定したのに対して、原告がこれを争っているので、検討する。
(1) 本件各発明の特許請求の範囲中には、「内側中間」の意味についての格別の記載はない。そこで、発明の詳細な説明をみると、甲第11号証によれば、作用効果に関する部分に、「主歩廊の足場板は主歩廊の枠体の内側中間に設けられているから、足場板より上方に起立する主歩廊の枠体の上部は巾木の役目をなし、足場板上の作業者が安全であり、工具等の落下を防止できる」(8頁右欄23行~27行)という記載があることが認められ、同記載によれば、主歩廊の枠体のうち足場板より上の部分は、巾木の役目を果たし、足場板上の作業者や工具等の落下を防止するという作用効果を奏するものであり、したがって、「内側中間」とは、このような作用効果を奏し得る程度に枠体の上端より低い位置にあるものと認められる。
一方、甲第4号証には、「図3から解かるように、圧延鋼からつくられた側部フレーム部材14は、外側側部壁17と、一対の内方向に曲げた上側フランジ18および19と、側部壁17に全体的に平行に配置された垂直方向のレール21を形成している逆向きに曲げられた下側フランジ20とを含んでいる。上側フランジ18は、壁17と一体的であり、フランジ19は、壁17の内側面に溶接されている。複数の荷重受けパネル22、22a等が、二つの側部フレーム部材13と14との間に取り付けられていて、パネルの縁が二つの上側フランジ18と19との間に位置し、所定の位置にボルト付けまたはリベット付けされている。」(1頁74行~89行)という記載があり、同記載によると、荷重受けパネルは、圧延鋼である上側フランジ18の厚み分だけ、本件各発明の「主歩廊の枠体」に相当する側部フレーム13、14の上端より低くなって、段差になっていることが認められる(別紙図面2参照)。
しかし、この上側フランジ18の厚み分程度の段差では、上記のような巾木の役目を果たすことができないことは明らかであるから、甲第4号証発明は、主歩廊の枠体の「内側中間」に足場板を設けるという構成を有していないものというべきである。
(2) 次に、本件各発明の特許請求の範囲中には、「主歩廊は上壁と下壁と内側胴部と外側胴部とからなる中空な枠体を備え、当該枠体の内側には長手方向に沿う開口部を設け、副歩廊は・・・前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、」、「又副歩廊の枠体内側には開口部を介して水平に延長する足場板を設け」ているとの記載があることが認められ、上記記載によれば、副歩廊の枠体は、主歩廊の枠体内に存在し、主歩廊の枠体の開口部の上下巾より長いというのであり、かつ、副歩廊の枠体の内側からは、主歩廊の枠体の開口部を介して足場板が延びているというのであるから、結局、副歩廊の足場板は、副歩廊の枠体の内側の少なくとも上端や下端ではない位置に設けられていることが認められる(なお、審決は、上記「副歩廊は・・・前記開口部の上下巾より長い枠体を備え、」という構成が存在している点で本件各発明も甲第4号証発明も一致している旨記載しているものの(審決書25頁9行~11行)、審決書の記載全体を検討すると、相違点とすべきものを一致点としているもので、誤記であると認められる。)。
そこで、副歩廊の足場板が設けられている位置について、発明の詳細な説明によって更に検討すると、甲第11号証によれば、作用効果に関する部分に、「同じく副歩廊の枠体は開口部の上下巾より長くその内側に足場板が設けられているから主歩廊から引き出されたとき枠体の上部は巾木の役目をなす。」(8頁右欄28行~31行)という記載があることが認められ、同記載によれば、主歩廊と同様に、副歩廊についても、その枠体のうち足場板より上の部分は、巾木の役目を果たし、足場板上の作業者や工具等の落下を防止するという作用効果を奏するものであり、したがって、副歩廊の足場板は、このような作用効果を奏し得る程度に枠体の上端より低い位置にあるものと認められる。
一方、甲第4号証には、「図3から解かるように、圧延鋼からつくられた側部フレーム部材24は、逆U字形のランナー部材26と、ランナー部材26の内側面に溶接されたL字形のフランジ27とを含んでなる。ランナー26は、フレーム部材14のレール21上に取り付けられ、U字形のランナー26のリム28をレール21と側部壁17との間に位置させてフレーム部材14に対して摺動可能とされている。複数の繊維板パネル29が、ボルトまたはリベットによりL字形のフランジ27に取り付けられ」(2頁3行~16行)という記載があり、第3図をみると、U字形のランナー26は、フレーム部材14のレール21を跨ぐように取り付けられており、パネル29は、U字形のランナー26の上端内側に取り付けられていることが認められる(別紙図面3(1)参照)。
したがって、パネル29に、本件各発明のような巾木の役目を果たすものが設けられていないことは明らかである。
(3) そうすると、甲第4号証発明は、本件各発明のような、主歩廊の枠体の内側中間に足場板を設け、又副歩廊の枠体内側には開口部を介して水平に延長する足場板を設けているという構成を有しないものであるから、審決の相違点(1)についての認定に誤りはないことが明らかである。
2 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について
(1) 審決は、「甲第4号証には、フットボードを装着してなる記載はあるものの、このフットボードが本件訂正後の特許請求の範囲第1項の発明及び第5項の発明の上記構成事項による巾木の役目のものと同じ機能を奏するものということはできない」(審決書27頁17行ないし28頁1行)として、相違点(1)に係る構成部分に進歩性を認める判断をしているので、その当否について検討する。
甲第4号証には、「プラットフォームの対向両端のブッシュ34に組み込むように調整されたレールまたは板の端に下方向に延びる差込口を設けることにより、プラットフォーム10の一方の側に沿ってハンドレールまたはフットボードを装着することも可能である。好ましくは、プラットフォーム10と共に用いられるハンドレールまたはフットボードも、プラットフォームの長さの調節に適応するように、テレスコープ状に調節可能である。」(2頁94行~103行)という記載があることが認められる。
乙第1号証(株式会社研究社発行「新英和大辞典」第4版(1960年第1刷))によれば、「フットボード」(foot board)とは、通常、「足台、踏み板」、「(寝台の)足板」などといった意味を有するものであることが認められる。
甲第4号証の上記記載に接した場合、プラットフォーム10に、ハンドレールと同様に装着されるという「フットボード」の語から、通路における足元付近に設けられた板を想起し、この板が、少なくとも通路からの物や人の落下を防止する役目を果たすものと認識することは、当業者のみならず一般人にとっても、誠にたやすいことということができる。
したがって、甲第4号証には、巾木の役目をし、足場板上の作業者が安全であり工具等の落下を防止できる技術が記載されているものというべきである。
(2) 甲第8号証(昭和52年6月30日社団法人仮設工業会発行「墜落防護工安全基準の解説」)には、「さきに昭和51年度の労働科学に関する委託研究の一環として、労働省より社団法人仮設工業会に対し、手すり等(墜落防護工)の構造及び設置に関する技術基準の作成について委託があった。このため、社団法人仮設工業会では、墜落防護工の安全技術基準作成委員会を設置し、建設業及び造船業等における墜落防護工の実状調査と併行して、産業安全研究所の指導援助のもとに実験的研究を行い、さらに委員会で検討審議を重ね、この安全技術基準を作成したものである。」(はしがき2行~8行)、「爪先板の高さは、床の上面より爪先板の上面までの高さが10cm以上となるように取付けるものとする。」(5頁6行~7行)という記載があることが認められる。
同事実によれば、床から起立した状態で取り付けられる爪先板が、墜落防護を目的とするものであることは明らかである。
(3) また、甲第9号証(昭和51年4月8日発行の意匠登録第420035号公報)には、意匠に係る物品の説明の項に「本物品は足場板に使用するものである。」という記載があり、右側面図及び使用状態参考図には、中空状の枠体の内側中間位置に通路が設けられ、枠体の上壁部が通路より上方になっている足場板が示されていることが認められる(別紙図面3(3)参照)。
同事実によれば、通路の左右の起立部が、通路からの物や人の落下を防止する役目を果たしていること、すなわち、巾木の機能を有していることが明らかである。
(4) 上記(1)ないし(3)認定の事実によれば、足場板に巾木の役目をする板を起立させ、足場板上の作業者や工具等の落下防止を図るという技術ないし技術的思想が、本件各発明の出願当時、周知慣用のものであったことは明らかである。
そして、甲第4号証発明に、上記周知慣用の技術ないし技術的思想を適用し、本件各発明の主歩廊の足場板に相当する甲第4号証発明の加重受けパネル22、22a、本件各発明の副歩廊の足場板に相当する甲第4号証発明のパネル29に巾木の役目をする板を起立させ、足場板上の作業者や工具等の落下防止を図ることは、当業者にとって、極めて容易なことであったといわなければならない。
(5) 被告は、本件各発明の主歩廊と副歩廊の各枠体は、ガイド部材であると同時に巾木の機能を有するものであるから、仮に、甲第4号証発明のフットボードが、巾木の機能を有していたとしても、これは後から別個に取り付けるものであって、ガイド部材としての機能をもたせるために取り付けるものではないとの前提で、本件各発明の主歩廊・副歩廊の枠体と甲第4号証発明のフットボードとは、その構成も機能も全く異なるから、当業者が甲第4号証発明から本件各発明に想到し得るものではないとか、甲第8号証の爪先板(足場板)は、足場板とは別体で、使用時に足場板に取り付けるものであるから、枠体と足場板とがあらかじめ一体的に結合された本件各発明と異なっているとか、甲第9号証には、枠体を一体に起立した足場板用の型材が開示されているものの、これは、足場板単体として使用されるものにすぎず、この足場板に他の足場板(副歩廊)を伸縮自在に組み付けることは、全く想定されていないとか主張している。
しかしながら、本件各発明の進歩性を検討するに当たってなすべきは、甲第4号証発明と、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証において認められる前記周知慣用の技術ないし技術的思想に接した当業者が、これらを契機として本件各発明に想到し得たかどうかであって、甲第4号証発明の構成に、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載されている具体的構成自体を組み合わせたものが本件各発明と同じものになるかどうかではない。甲第4号証発明に前記周知慣用の技術ないし技術的思想を適用しようとした場合には、具体的な面で設計上の工夫が必要であったとしても、そのために適用が妨げられるといった特別の事情が認められない限り、本件各発明に容易に想到し得たものというべきである。そして、上記特別の事情に該当すべき事情は、本件全証拠によっても認めることができない。
被告の主張は、甲第4号証、甲第8号証ないし甲第9号証に記載されている具体的な構成のみを取り上げて論じているにすぎず、失当というほかない。
3 そうすると、審決の取消しを求める原告の請求は、理由があることが明らかである。そこで、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
<以下省略>